精神科関係のことを理解する上で助けになると思われることを中心に、大まかに
脳のメカニズムについて書いていきたいと思います。
脳の構造
脳は大きく大脳、脳幹(中脳、橋、延髄)、小脳、間脳、に分けられます。
大脳の働き
大脳はさらに前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に分けられます。
さらにその内側には大脳辺縁系、大脳基底核などに分けられます。
前頭葉…脳のなかで最も高級(人間らしい)な部分とされています。大きく分けて3つの機能があります。
- 運動機能中枢 錐体路とか錐体外路とか言われるものの出発点です。
ここから手足の先まで神経がのびていき、運動します。 - 運動言語中枢 発語に関しての中枢です。ここがやられるとBroca失語(運動性失語症)
となり、しゃべれなくなります。 - 精神機能中枢 人間を人間たらしめるのに必要な高次の精神機能の中枢です。
意志、計画性、創造性などもここで司っています。ここがやられますと、人格荒廃
などが見られます。
側頭葉…ここには記憶の中枢、聴覚の中枢、臭覚の中枢、感覚言語の中枢があります。
したがってここがやられますとそれぞれの障害が出てきます。特に感覚言語中枢が駄目になると
Wernickeの感覚性失語と呼ばれ、わけの分かんない言葉を発します。(発声はできます)
頭頂葉…ありとあらゆる感覚の中枢で、温冷覚、空間認識、左右認識能などもここにあります。
後頭葉…視覚中枢があり目で見たものを認識します。ここが駄目になるとものは見えるが
それがなんだかわからない状態になります。
大脳辺縁系…情緒の中枢です。わかりやすく言うと試験で0点とって反省して新たな学習をしよう
とするのが前頭葉、頭頂葉、側頭葉の役割で、やり場のない怒りを覚えるのが辺縁系の仕業です。
また、ここには記憶の貯蔵庫である海馬、感情との関係が深い扁桃核など小型の脳が集まります。
大脳基底核…尾状核、被殻、淡蒼球、視床下核、黒質、赤核のことを言います。
これらは細かい運動の中枢です。また、感情との関連もあるとされています。
脳幹の働き
脳幹とは中脳、橋、延髄のことをさし生命維持に重要な中枢です。脳幹には意識の中枢があります。
中脳…大脳皮質と橋、延髄、小脳、脊髄を結びつけている神経繊維の集まりで、歩行や姿勢の制御、
瞳の瞳孔の収縮などより高度な運動を調節します。
橋…小脳との重要な連絡路があります。
延髄…摂食、発音に関係し、呼吸と循環(心臓の働き)の中枢があります。
生命維持活動に大切なところです。ここがやられることで摂食障害や言語障害、
呼吸停止などが起こります。
小脳の働き
小脳には歩行に関する機能や頭を動かしたりする機能、また、手足の協調運動を司っています。
脳幹と密接な関係にあり、絶えず情報交換を行っています。飛行場の管制塔のような役割です。
小脳がやられますと、フラフラ歩くようになったり、体を垂直に保つことができなかったりします。
また、言葉のなめらかさが失われる構音障害が出てきます。
筋疲労筋疲労
間脳の働き
間脳は視床と視床下部からなります。
視床…全ての感覚の中継路です。また、大脳を覚醒させておこうともします。
視床下部…一言で言えば植物機能の中枢です。
- 自律神経中枢 自律神経とは体で特に意識してなくても勝手に調節している生体機能の こと
です。つまり、体温、食欲、性欲、睡眠、全体的な代謝、血圧などのコントロールを行っています。
- 内分泌機能中枢 内分泌とはホルモンのことでホルモンの調節を行っています。
自律神経系
体の調子をいつもある一定の範囲内でコントロールしようという仕組みが生体には
備わっていて(ホメオスターシスって言われるやつです)、その調節に働くのが自律神経系と
言われるモノです。「自律」とは、自分(生体)が決めた規則に従うという意味です。
これは半ば無意識のうちに行われています。体のバランスを保っているものです。
自律神経系は大きく分けて2つあり、交感神経系と副交感神経系に分けられます。
作用は、どちらがより優位な状態にあるかで決まります。
交感神経系は「戦闘状態」を考えるとわかりやすいです。
この神経が興奮しているのは、体が外界からの刺激に抵抗しようとしている状態にあると考えます。
ケンカしているときは目を大きく見開き、心臓がバクバクなって、
体中に血液が回るのを感じることがわかります。
決して、ケンカしてるときにはトイレに行きたいとか考えませんよね。
交感神経系から出る物質はアドレナリンと呼ばれるものです。
この中には、ドーパミンやノルアドレナリンなども含まれます。
副交感神経は交感神経とまったく反対の作用を示すのですが、
「ご飯を食べたあとの状態」と考えるとわかりやすいです。
目がトローンとしてきたり� �胃腸の働きがよくなったり、そのうち尿意を感じたりもしてきます。
副交感神経からはアセチルコリンなどのコリン物質が分泌されます。
神経の伝達
人間の体は全て神経によって支配されていると言っても過言ではありません。
ひとつの命令が神経を伝わって体のあちこちに伝わっていきます。
どうやって情報を伝えていくかと言うことは、まだまだ研究段階ですが、簡単に言うと、
バトンをつかってリレーをしていきます。
大脳から脊髄へ、脊髄から筋肉へなどと命令に従って、情報が伝わっていくのですが、
その神経と神経とのあいだは実はつながっていません。
そこでバトンの役目をするのが神経伝達物質と呼ばれるものです。
ひとつの神経がずっと走って、次の神経にバトンを渡すところをシナプスと言います。
また、次の神経がバトンを受け入れるところは受容体(レセプター)と呼ばれます。
情報がシナプスまで来るとそこから神経伝達物質がドバーッとでます。
次にその神経伝達物質が受容体と合体すると神経へバトンが渡されて、
次の神経はまた次に神経に向かって走り出します。
酸は虫歯の原因となる
神経伝達物質にはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、タウリン、グルタミン酸、
アセチルコリンなどたくさんの種類があり、それぞれに役割があります。
それぞれの神経伝達物質や受容体によって色々効果が変わってきます。
また、一度放出された神経伝達物質は受容体に受け取られたあと、
余った分はシナプスのほうに再び取り込まれます。こうやって省エネにつとめてるのですが・・・
詳しくは次の項目で述べます。
ここら辺がうつ病のとことからんできます。
神経伝達のメカニズム
ある脳部位には同じ神経伝達物質を持つ細胞体が集まって存在し、
神経繊維を他のいくつかの脳部位に送り出しています。
この神経線維の束を神経路とよび、全体を神経系といいます。
各神経系は放出する神経伝達物質別に分類され、
ドーパミン作動性神経、ノルアドレナリン作動性神経と名付けられています。
ノルアドレナリン作動性神経を例に説明します。
神経が興奮して刺激が神経終末まで達すると、神経終末にあるノルアドレナリンはシナプス内へと放出されます。
放出されたノルアドレナリンはシナプスにある受容体に結合します。
受容体は神経伝達を受け取る受け手側の神経系と送り手側とな� ��神経終末にあり、前者を後シナプス受容体、
後者を前シナプス受容体と呼びます。ノルアドレナリン作動性神経の場合、後シナプスにはα1、α2、β受容体が、
前シナプスにはα2受容体があります。
受容体に神経伝達物質が結合すると受容体特有なタンパク質に変化が起こり、セカンドメッセンジャーが合成されます。
このセカンドメッセンジャーの作用によって、受け手側の神経の情報伝達が行われていきます。
送り手側のα2受容体はどれだけノルアドレナリンが神経終末から放出されたかをキャッチし、
ノルアドレナリンの放出量を調節する働きを持っています。
このように送り手側にあって、神経伝達物質の量を調節している受容体を自己受容体といいます。
シナプスへ放出されたノルアドレナリン は送り手側に再取り込みされて、モノアミン酸化酵素(MAO)によって、
分解されて神経伝達物質としての働きを失います。
神経終末へ再取り込みされる場所があり、この部位をトランスポーターといいます。
ノルアドレナリンとうつ病
ノルアドレナリン作動性神経は脳幹部の橋と延髄に細胞が存在し、そこから脳の多くの部位に神経をのばしています。
ノルアドレナリン作動性神経は覚醒・睡眠リズム、不安、情動、意欲、下垂体ホルモンの分泌などの作業を行っています。
ノルアドレナリンは躁病やうつ病との関係があります。
はっきりとしたきっかけがなくても起こってくる内因性うつ病では、α2受容体作動薬のクロニジンによる
成長ホルモン分泌反応が弱かったり、視 床下部では受け手側のα2受容体の感受性が低下していると考えられています。
そう病でもクロニジンによる成長ホルモン分泌反応が弱く、うつ病が回復し、症状が消失した状態でも同様の所見がえられます。
つまり、この反応はうつ病の係りやすさとの関連を示しています。
三環系抗うつ薬を投薬すると、送り手側のノルアドレナリンのトランスポーターに作用し、
ノルアドレナリンの再取り込みを抑制します。
また、抗うつ薬を慢性的に投与することで、脳内のβ受容体の感受性を低下させます。
その他、不安や覚醒・睡眠リズムを調節していることから、不安神経症、心身症、睡眠障害との関連も注目されています。
痛み医学のアメリカアカデミー
ドーパミンと幻覚妄想状態
ドーパミンはノルアドレナリンとよく似た構造をしています。
受容体は、大きく分けるとD1とD2の二つに分けられますが、細かく分けると5種類補と見つかっています。
D1受容体はシナプスの受け手側に存在し、D2受容体は送り手がわと受け手側にあります。
送りて側のD2受容体は自己受容体です。
ドーパミン作動性神経系は大きく三群に大別されます。
第一は、黒室から基底核の線条体にいたる黒室線条体路で、パーキンソン病との関連を持つ神経系です。
第二が中脳辺縁路で、中脳から情動をつかさどる大脳辺縁系への神経を送っています。
この神経系が精神分裂病の幻覚妄想 状態と関連すると推定されています。
第三の隆起下垂体路は視床下部から下垂体へと向かう神経系で、下垂体ホルモンの分泌を調節しています。
覚醒剤のメタンフェタミン(ヒロポン)やアンフェタミンはドーパミンやノルアドレナリンのシナプスからの放出を増加させ、
送り手側への再取り込みによる不活化を抑制して、ドーパミンやノルアドレナリンの機能を増加させています。
覚醒剤を用いていると、意欲の増進や痩せにくわえて、幻覚妄想状態が出現してきます。
また、抗精神病薬はD2受容体の拮抗薬です。抗精神病薬が幻覚妄想状態に効果を持つことから、
幻覚妄想状態は中脳辺縁路のドーパミン機能の亢進によるものとされています。
つまり、精神分裂病では、この神経路の機能� ��亢進している状態と考えることができます。
セロトニンとうつ病
セロトニンはセロトニン作動性神経内で合成され、シナプスに放出され、受容体に作用したあと、
神経終末に再取り込みされます。その後MAOによって不活化されます。セロトニン受容体には多くの受容体があり、
脳内には5HT1A、5HT1C、5HT1D、5HT2、5HT3の5種類の受容体があります。
セロトニン作動性神経は中脳の縫線核にあり、大脳皮質、海馬、線条体、視床下部へと神経を送っています。
セロトニンは覚醒・睡眠リズム、不安、情動と関連を持っていると言われています。
5HT1A受容体は受け手側と送り手側にあり、下垂体ホルモンやステロイドホルモンの分泌を促します。
うつ病の� ��では、受け手側と送り手側の5HT1A受容体の感受性が落ちているのではないかと言われています。
三環系抗うつ薬はセロトニンの神経終末への再取り込みを抑制します。
非三環系抗うつ薬でも同様の働きを持つものが多いようです。
MAO阻害薬はセロトニンの代謝を行うMAOを阻害してセロトニンの作用を増強します。
抗うつ薬を慢性的に投与すると5HT2受容体数の低下がみられます。
アセチルコリンとアルツハイマー病
アセチルコリンは意識、知能、記憶、覚醒・睡眠リズムなどを調整しています。
アセチルコリン受容体はニコチン受容体とムスカリン受容体に大別されます。
ニコチン受容体は横紋筋収縮、副腎髄質からのカテコールアミン分泌を行います。
ムス� �リン受容体には、拮抗薬のピレンゼピンと相性のいいM1受容体と相性のあまりよくないM2受容体があります。
M1受容体は受け手側にあるのに対して、M受容体は送り手側にもあり、アセチルコリンの放出を調節しています。
アルツハイマー病では大脳皮質や海馬へのコリン作動性神経路が選択的な欠損が起きています。
また、M2受容体の数も減少しているようです。
パーキンソン病では尾状核神経の機能亢進が起こり、手指の振戦を起こすようです。
ノルアドレナリンやセロトニンの機能を調節して、覚醒・睡眠リズムをコントロールしています。
うつ病の病因がノルアドレナリンやセロトニンといったモノアミン作動性神経系と
アセチルコリン作動性神経系とのアンバランスによるものという考えもあります。
ガンマアミノ酪酸(GABA)と抗不安薬
GABA作動性神経は大脳皮質、海馬、、小脳、線条体から黒質にかけて存在します。
GABA作動性神経には抗けい れん作用、抗不安作用といった働きがあります。
GABA受容体にはGABA-A受容体とGABA-B受容体があります。
GABA-A受容体はベンゾジアゼピン系、バルビツール酸結合に関連した作用を示します。
ベンゾジアゼピン系薬物は抗不安作用、抗けいれん作用、睡眠導入作用を持つ薬剤で、
バルビツール酸も抗けいれん作用、睡眠導入作用を持っています。
GABA-B受容体は抗うつ薬と関連を持つ受容体です。
三環系抗うつ薬や非三環系抗うつ薬、MAO阻害薬などを慢性的に投与するとこの受容体の感受性が増します。
このことから、うつ病との関連が注目されています。
神経ペプチドとこころの病
以上のような神経伝達物質の放出を調節する物質が神経内に存在するこ� ��が、
最近よくわかって発見されるようになってきました。それが、「神経ペプチド」です。
この中には、脳内麻薬とよばれるβエンドルフィンなども含まれます。
神経ペプチドは神経伝達物質と一緒にシナプス内に貯蔵され、
神経の興奮とともにシナプスへ放出されます。
神経ペプチドには神経ペプチドの受容体があり、これと結合します。
送り手側に存在する受容体は神経伝達物質の調節を行っています。
受け手側に存在する受容体では神経伝達物質の受容体に働きかけ、機能を調節しています。
脳内には60種類以上の神経ペプチドが存在し、その機能は多機能です。
自発運動、食運動、体温調節運動、疼痛、睡眠、学習、記憶などに深く関わっています。
脳内には麻薬や� ��痛薬の受容体が存在します。
これらは、オピオイド受容体とよばれます。
この受容体に作用する神経ペプチドはβリポトロピン、αエンドルフィン、βエンドルフィン、γエンドルフィンなどです。
これらの受容体は脳内に広く分布していて、鎮痛、依存性などに関係しています。
コレシストキニンという神経ペプチドはドーパミン作動性神経に存在し、ドーパミン放出に抑制的に働きます。
精神分裂病患者の死後の脳では側頭葉のコレシストキニンの濃度が低下しています。
ソマトスタチンはアルツハイマー病の大脳皮質で減少しており、ソマトスタチン受容体も減少しています。
このことから、ソマトスタチンは知能との関連があると考えられています。
また、抗精神病薬のハロ� �リドールは前頭葉皮質と海馬のソマトスタチンの感受性をさげます。
抗てんかん薬のカルバマゼピンとバルプロ酸は海馬のソマトスタチン濃度を減少させます。
ソマトスタチンはGABAと共存していることから、けいれんとも関係すると言われています。
この他色々な神経ペプチドが見つかり、色々な作用がわかっています。
これらを元に新しい薬の開発も進んでいます。
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